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Interview

取材動画

カナダモントリオール 寺本 恭子【取組事例インタビュー】

〈NorthSDGsMediaでは北海道札幌市の企業様のSDGsに関する取り組み事例を紹介しています。〉

【SDGs取組事例】寺本 恭子【デザイナー】

真のラグジュアリーを追求し、ニット帽子の素材や生産の背景、問題などを自分の目で見て理解を深めた寺本様。
どのような過程を経て現在の「ami-tsumuli」が在るのか、お話を伺いました。


 

まずは自己紹介、事業紹介をお願いします。

寺本:国産ニット帽子ブランド「ami-tsumuli」のデザイナーをしており、現在は家族でカナダのモントリオールという街に住んでおります。私はもともと母の影響などもあって自然的なものや美しいもの、特に高品質なラグジュアリーファッションが大好きです。

父の逝去に伴って母方の祖父の経営していた老舗の国産ニット帽子メーカー、吉川帽子株式会社を継ぐことになりました。その中ではOEM生産のお仕事をしていたのですが、もともとデザインも好きだったので自分のブランドを立ち上げました。それが「ami-tsumuli」というブランドで、2004年にフランスのパリのプルミエールクラスという合同展示会でデビューしました。

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オーガニックコットン糸をバラで染めた、初めてのエシカルコレクション(2013年)

 

ーなぜ環境に配慮したニット帽子を作ろうとしたのか、きっかけを教えてください。

寺本:大きなきっかけになったのは、10年ほど前に初めてヴィーガンの方に出会ったことです。その方はウールなど動物繊維を一切身につけないんですね。純粋に「どうしてウールがダメなのかな?」って思ったんです。
羊を殺しているわけじゃないし、毛を刈っているだけなのになって。仕事柄ウールにはすごくお世話になっていたので。

そこから独自にどんどん調べて行くと、全然知らなかったことがいっぱいあって。
ウールに限らず色々興味を持っていくと、動物素材に限らず植物繊維や化学繊維であってもそれぞれいろんな問題があることに気がつきました。
それまで私は、私なりにできる限り高品質なものを作っている自信があったんですね。職人さんとのやり取りも丁寧にやっていたし、素材選びもいわゆる“いい素材”を使っていたつもりだったので。でもその素材が作られる背景を考えておらず配慮してこなかった自分にショックを受けました。

ラグジュアリーってすごく贅沢なものなのに、そんな話を知ると全然楽しめないじゃないですか。やっぱり自分が作る側としても“いいもの”を作ろうと思っているのに、実は背景にこんな悲しいストーリーが入っていたんだって思うと、それは私が求めている本当のラグジュアリーじゃないなって思ったんですね。
じゃあ本当のラグジュアリーってなんだろうっていうのを追求したくなって、その一念で環境に配慮した素材を使い始めました。


ーそこから環境に配慮したニット帽子を作るために、どのような行動を起こしたのですか?

寺本:まずは本を読んだり、インターネットで調べたりしていましたが、当たり前ですけど誰かが書いた情報なので、その情報が嘘ではないですけどバイアスがかかっているんですよね。
気付いたのは、一つのものに絶対的に良い・悪いってないんです。この角度から見るといいけどこの角度から見ると悪い。例えば農薬だって理由があって使っているわけで、100%悪い物だったら誰も使わないと思うんですよ。

そうなった時にじゃあ私にとって何を選ぶべきなのかって考えていくと、私が自分の目で現場を見て感じるのが一番だと思ったんです。だからこれが良い・悪いってジャッジする前に、まずは自分の目で見てみよう。ニュートラルに、ただ現場を見てみよう。自分の五感で感じてみたら私ってどう感じるんだろうと思って、極力一次情報を取りに行くようにしたんですね。

まずはオーガニックコットンに馴染みがあったので産地に行きました。コットンの生産地って世界で大きなのが3つあって中国・アメリカ・インドなんですけれど、まずアメリカのテキサスのオーガニックコットン畑の視察に行きました。ここでの一般的な綿畑は空から農薬を撒くような感じで、枯葉剤を使う場合もありますし、農薬の量がかなり多いのが問題なんですね。

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テキサスのオーガニックコットン畑にて(2012年)

 

何年後かにはインドに行く機会があって、インドのコットン畑を見て。そちらは児童労働、子供達が学校に行く代わりに綿花畑で働くという問題がありまして。そこの方と直接会って、なぜそのようなことが起きてしまうかなどの話もしました。

あとは北海道の羊の牧場や、繊維に詳しい方のいる京都、革のことを知るため栃木にある植物タンニン鞣しの工場にも行きました。そこで分かったのですが、一概に言えないんですよ、どれも「これ良い、悪い」って。だけどそのような情報を得た上でできる限り自分に合っているものを選ぼうという感じで選択するようにしました。

 

ー取り組みに対する想い、また今後の展望をお聞かせください。

寺本:ベースになっているのは変わらず「本当のラグジュアリーってなんだろう」っていう好奇心だと思います。

そんななかで、2013年にエシカルラインっていうのを立ち上げてみました。当時エシカルって言葉も浸透していなくて「何それ?」って感じだったんですけれども、とりあえず自分でやって、自分の中で究極にエシカルなものづくりをしてみようって思って。

やってみてわかったのが、エシカルって日本語で言うと「道徳」とか「倫理」という意味なんですけど、これって人間が考えることなんですよね。それって時代とか地域とか、その状況によってすごく変わってしまう曖昧なものだって気付いたんです。
アパレルの世界では例えばフェイクファーがいいのかリアルのファーがいいのかって言う問題なんかがあって。
リアルのファーは動物殺しているよね、でも生分解して土に戻る。フェイクファーは動物殺してないけど作るのに石油とか水とかすごく使うし土に戻らないし、機能としても劣ってしまう。
じゃあどっちがエシカルなの?とか、ファーが欲しいけど我慢することがエシカルなの?とか、わからない。誰も答えが出ない世界なんです。

ビーガンコレクション

起毛したオーガニックコットンとフェイクファーのヴィーガンコレクション(2018年)

 

最近思ったのはそうやって近視眼的になるとわからなくなってしまうということ。モノって全部エネルギーだと私は思っているんですね。だから今はもっと複合的に考えていて、「〇〇だから」で選ぶのではなく、職人さんがどのような想いで作ってくれたか、私がどんな気持ちでデザインしたか、農家の方がどのような想いで育てているか、羊さんがどうやって育てられているか、販売員さんの想い、どの程度オーガニックかどうか、原材料の作られ方はどうか。その全部が合わさって、最後に、私の場合は「帽子」になるんですね。

オーケストラのようなイメージで、1つ1つのハーモニーで総合的に最後1つの曲ができ上がるみたいな。それがエネルギーとなって聞く人に響くわけですよね。このシンバルがいいから、この指揮者がいいから、だけじゃないと思うんです。

今はそういったような想いで作っていまして、総合的に“絶対的”にいいものっていうのはないので、“私が思う”総合的にいいエネルギーを運んでくれるような帽子を作れたらいいなと思うし、それがきっと万人には合うわけではないと思うので、そのエネルギーを必要としてくれる人、そのエネルギーで幸せになってくれる人のところに届いてくれたらいいなと思って作っています。目標です、まだ精進しているところです。

 

ーこの記事や動画を見てくれた方へのメッセージをお願いします。

寺本:昨今SDGsという言葉も広まりつつあって、きっとモノとかサービスの背景にあるストーリーを考えていく方って増えていると思うんですね。
とってもいいことだと思うんです。そして今は情報がすごくいっぱいありますよね。
そういった何かの情報に触れたときに、それがいいか悪いかって早くジャッジしすぎない方がいいんじゃないかな、っていうのが今すごく感じていることです。

あくまで情報に触れたときは参考にはするけれども、自分も同じように思う必要はないんですね。情報を得て、じゃあ自分はどう思うかっていうことをしっかり考えていただきたいと思います。

消費者の場合は、「オーガニックだからいい、買わなくちゃ」「フェアトレードだから買わなくちゃ」とかそういうのじゃなくて、本当に自分にピンときているかっていうのを自分に感じ取って欲しいんですよね。

いくらオーガニックでフェアトレードでも、自分がなんか違うな、ピンとこないな、と思ったら無理に買う必要はないですし、自分で見て自分で感じて、自分で選択していって欲しいなと思います。

 


情報が混沌としている今の時代、エシカル(倫理)とは何なのか、改めて考えるきっかけとなるお話でした。
寺本様デザインのニット帽子は下記URLよりご購入いただけますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。

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ニット帽子デザイナー
寺本 恭子
URL:http://www.ami-tsumuli.com/
Instagram:https://www.instagram.com/kyoko_tf/?hl=ja